星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

はじめての夜に戸惑う

こちらは、私にしてはわりと真面目にご夫婦の「はじめて」を妄想するシリーズです。
ちょっとシリアスだったり、夜の話が多くなるのではないかと思っています。
苦手な方はご無理なさらないでください。
コミックス未収録分のネタバレを若干含みますので、ご注意下さい。

ようするに、なんでも大丈夫な方はどうぞ!!







陛下の「本物の花嫁」として後宮に戻って来たその日。
私よりも誰よりも朝から落ち着かないのは、老師だった。

「陛下、お妃さまはお支度がございますので、一度王宮にお戻り下さい。
サイっコーの夜をお約束しますぞ!!」
その日の夕暮れ。
昼過ぎに政務を終わらせて、私と一緒に後宮に戻って来た陛下に老師は告げた。
「……そうか。
じゃあ夕鈴。また後で来るから」
あからさま過ぎる老師に、陛下ですら気まずげな表情を浮かべて去っていった。
恥ずかしさのあまり口をパクパクさせていると、老師は鼻息荒く、部屋に一人になった私を振り返った。
「掃除娘!いよいよじゃ!!
いいか、気合を入れるんじゃぞ!!
世継ぎじゃ世継ぎ!!!」
「いや、そんな、大声で……」
「恥ずかしがっとる場合か!妃の役割の本分じゃろうが。
夜の勤めこそが最重要なんじゃ!!
それにしても、もっと寝台周りも紅色の敷き布に変えたりしなくてよいのかの?
香はどうした、香は。
あんまりにも殺風景なんじゃなかろうかの?」
いそいそと動き回る老師を見ながら、私は溜息をついた。
「いや、本当普通でいいです。
陛下お香も好きじゃないし、派手な色もどっちかというと苦手ですし。」
第一、『さぁさぁ、どうぞ!』とばかりに準備されるっていうのは、どうなのよ。
逆に、引くと思う。
実際、私はかなり引いてる。
そういうのって、もっとこう、よくわからないけど、二人の気持ちが自然にそうなるものなんじゃないのかしら。
夫婦の問題なんだし、できれば放っておいて欲しい。
「そんな、あからさまに気合いを入れ過ぎるっていうのもどうかと思いますけど」
うんざりした私を呆れたように見やった老師は、深く溜め息をついた。
「お主はノンキじゃのう。
唯一の妃として、早々に世継ぎを産まねばならないことくらいは分かっとるじゃろうに」
また言ってるし。
そのあからさまな単語が嫌だっていうのに!
「だからそれ止めて下さい。
そもそも赤ちゃんは授かり物ものなんだし。
そんな早々に、だなんて言われても困ります」
口を尖らせて文句を言うと、老師はしばらくびっくりするくらいまじめな顔で、黙って私を見つめた。
「あの、老師……?」
どうかしたのかと声をかけた私に、老師は静かに口を開いた。
「……お主は、今の自分の立場を分かっとるかの?」
突然話題が変わったことに驚いて目をぱちぱちしている私を、老師は黙って見ている。
なんだろう。よくわからないけど、まじめに答えたほうがよさそうだ。
「えっと、今日から陛下の本物の妃……です」
老師はやっぱりの、とでも言いたそうに苦笑した。
「半分正解と言ったところか。
お主はの、ただの妃ではない。
ほぼ一年、陛下の寵愛を独占していた妃じゃ。
そして寵愛を得ていたにも関わらず、世継ぎがいない。
子が出来る気配もない」
自分の顔が一気に赤くなるのが分かる。
「そっ……そんなの、当たり前じゃないですか!
私はバイトだったんですよ!?」
「王宮の連中はそうは思っとらんよ」
叫ぶ私を、老師の静かな声が遮った。

静かなその言葉に。
がつんと、頭を殴られたようだった。
そう。言われてみれば当たり前のことだ。
だって、バイトだったことは内緒で。
事情を知らない人にとってみれば、私はとっくに陛下の本物の妃だったんだ。
でもそのただ一人の下端妃はいつまでも世継ぎを授かる様子もない。
やっといなくなったと思えば、また後宮に戻ってきた……

「誰が世継ぎを産むかは権力争いの上で、最も大きな問題。
生まれてくる世継ぎの外戚や後見の立場を得られれば、一族の未来は安泰じゃからの。
無理もない」
足元がぐらぐらする。
話に、頭が追い付いてこない。
「家柄も後見もないお主の立場は、いつ崩れるか分からない砂の上に立っているようなもんじゃ。
世継ぎを授かることは、そんなお主の立場を安定させることにも繋がる」
「だ、だって……陛下はそんなこと、何も……」
「そりゃあ陛下は、お主には口が割けても言わんじゃろう。
今お主に話したのは、ワシの一存じゃ。
そうそう、勝手ついでに、もうひとつ教えてやろう」
老師は穏やかな口調で、じっと私を見つめて告げた。
「いつまでも世継ぎを産まぬ妃だけを寵愛する王に、連中は何を求めると思う?
……お主次第で、陛下のお立場も変わるやもしれんの」


私は、なんてと言っていいのか分からず突っ立っていた。
老師の言葉が頭の中を何度も回るけれど、少しも意味をなしてこなかった。
まるで、無意味にから回る糸車だ。
私は、ひとつ息を吸って目を閉じた。
なぜ老師は急にこんな話をしてくれたんだろう。
「……どうして、私に教えてくれたんですか?
陛下に止められていたんでしょう?」
老師は、私の言葉になぜかちょっとだけ笑った。
「本来後宮へ来るような娘は、そんなもの百も承知でやって来る。
じゃがまぁ、お主は特殊じゃからのう。
これから自分が暮らす場所が本来どういったところなのか、自分が置かれた立場がどんなものか知らぬままでは不公平じゃろ?」
老師は腰かけていた椅子からぴょんと飛び降りて、扉へ向かった。
ぼんやり見送る私を振り返って、老師はもう一度微かに笑った。
「これが本当の後宮のほんの一端じゃ。
お主がここで、どう生きていきたいか。
大事なことを見失うんじゃないぞい」
私は、ひとり自室に残され立ち尽くしていた。



あっという間に夜の帳がおりる。
花弁を浮かべた湯殿でこれでもかっていうくらい、身体中きれいに磨いてもらって、髪も丁寧にすかれて。
嬉しそうに世話してくれる侍女さんたちに曖昧に微笑む。
さっきの話をどう飲み込んだらいいのかわからないまま、その時を迎えてしまった。
陛下の訪れを告げる先触れの声に、思わず肩が震えた。
私は、ここでどうしていきたいんだろう。
陛下の顔を見れば、わかるんだろうか。



「―――りん、夕鈴?」
陛下の声にはっと手許を見れば、注いだお茶が茶器すれすれになっていた。
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「大丈夫?
今日は久しぶりに大勢と顔を合わせたから大変だったよね。
お疲れさま」
優しく頬に触れてくれる陛下の手が温かくて、すごくほっとする。
「ありがとうございます。
……そうですね、ちょっと疲れちゃったのかもしれません」
陛下の手に自分の手を添えて、私は目を伏せた。
やさしい、陛下。
私はこの人のために何ができるんだろう―――

またぐるぐると考え始めた私の身体が、急に宙に浮いた。
「きゃっ……」
「動くと危ないよ?」
陛下はいつものように私を抱え上げて、すたすたと寝台へ進んでいく。
ああ、それはそうよね。
一緒に寝るのよね。
だってもう、夫婦なわけだし。
……どうしよう。
もう、わけがわからなくなってきた。

がちがちに固まった私を、陛下はそっと寝台に下ろした。
「―――夕鈴って本当にかわいいね」
くすくす笑う陛下があまりに嬉しそうだったから、私もつられて笑った。
ああ、私は本当にこのひとが好きだ。
私を見る陛下の目が、触れる指が。
その全部が私の事を大事にしてくれてる。
「夕鈴―――」
陛下の瞳が、狼に変わる。
私の肩に置かれた手に力がこもる。


私たちのお互いを思うこの気持ちも。
王宮の人たちには利用できるかそうじゃないか、まるでモノのように考えられてしまうんだろうか。
陛下に触れる直前に、ふとそんな考えが頭をよぎった。
「あ……」
思わず躊躇うように漏れてしまった声に、陛下が動きを止めた。
そしてちょっとだけ黙って私を見つめた後、ただ優しくおでこに口づけをくれた。
「……夕鈴、今日はもう休もう」
「え、でも……」
「そんな顔しないで、夕鈴。
この間も言ったけど、僕たちは焦らずに僕たちらしい夫婦になればいい。
これからずっと一緒にいられるんだから」
ね、と言いながら、陛下は私を抱きかかえて寝台に横になった。
陛下の腕の中は、泣きたくなるくらい温かくて、どきどきするのになぜか落ち着く。
陛下はそっと背中を撫でてくれた。
不安も、怖さも、全部音も無く消えて行くようだった。
風もない、静かな夜。
陛下の心臓の音に耳をすませているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちて行った。




後記。
続きます。
目指せ、幸せなはじめて!

以下おまけラクガキ。
翌日の政務室。
陛下はきっと寝てないと思います。
そして李順さんの想像した頑張りは、皆無。
はじめての





関連記事
スポンサーサイト
はじめての | コメント:8 |
<<LaLa 1月号ネタばれ感想 | ホーム | 酒と泪と元帥と衛生兵 3>>

コメント

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-11-21 Sat 02:07 | | [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-11-21 Sat 06:58 | | [ 編集 ]
悶々と寝返りをうつ陛下が目に浮かぶ(笑)
頑張れ!陛下!
2015-11-21 Sat 08:20 | URL | くみ [ 編集 ]
新作拝見しました!
これから2人はどうなるのか、続きを楽しみにしてます(^^)
2015-11-23 Mon 23:23 | URL | 空 [ 編集 ]
ゆらら様。
一番拍手ありがとうございます♪

老師のお節介、初夜を遠ざける…
ことわざみたいです(笑)
原作陛下の鋼の心に衝撃を受けたので、こんな感じに…
下手打って失うくらいなら我慢しちゃうんでしょうね。
失うわけないのに~(о´∀`о)
2015-11-25 Wed 08:06 | URL | rejea [ 編集 ]
あい様。
恐ろしいことに、陛下の眠れない夜は後2日続いたようです…
李順さんが心配するくらいげっそり。
4歳下のかわいいお嫁さん(純粋)相手だと、大変ですね(*´∇`*)

早くぶつかり稽古が書きたいです~
2015-11-25 Wed 08:11 | URL | rejea [ 編集 ]
くみ様。
本当、陛下って若いのに我慢強くてかわいそうになります。
なので、新婚編の遠慮がなくなってきた陛下を見ると嬉しい!
もっともっとところ構わず、いちゃつけばいい\(^o^)/
お妃さまには頑張って耐えてもらいたいです(笑)
2015-11-25 Wed 08:16 | URL | rejea [ 編集 ]
空様。
コメントありがとうございます♪
夕鈴らしく、どーんとぶつかっていけるように頑張って考えます!
あまり色気は出ないかもしれませんが(´▽`;)ゞ
2015-11-25 Wed 08:23 | URL | rejea [ 編集 ]

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |