星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

李順先生の正妃養成講座

注)本誌69話の後。李順さん、夕鈴の日常です。
陛下は出てきません。


「よろしいですか、夕鈴殿。これから陛下に数多湧いてくるであろう縁談をお断りするためには、貴女に立派なご正妃となっていただかなくてはなりません。家柄も貌も大したことないんですから、後は実力で正面突破するしかありません。」
「はいっ。力いっぱい頑張りますっ。」
李順の視線を真っ向から受け止めて、夕鈴は拳を握って答える。
―――本当に気品の「き」の字も感じられないが、まあいい。今日のテーマは。
「まずは国政の要、経済の基本です。ここに王宮にある中で1っっ番簡単な入門書を持ってきました。まず朗読してみましょう。」
「うっ……わかりました!読ませていただきますっ。」

「『各州の…年度予算、に応じ、国庫支出金が分配される、が……不足が生じた場合には、採決後に特別、支出金を支給することで年度、予算の、調整が行われる』……」
眉間にシワを寄せながらたどたどしく読み進める。
何よこれ。何言ってんだか最初のページからさっぱりだわ。
表情からそう思っているのが丸分かりだが、夕鈴は文句一つ言わずに何とか読み解こうと必死だ。
日中は老師からみっちりと後宮の歴史について講義を受けているはずで、もともと勉強嫌いな彼女としてはよくやっている。
……下くちびるが力み過ぎて変な顔になっている。
以前陛下は彼女を儚い花のようだと仰っておられたが。
(この小娘のどこがどう儚く見えるんでしょうかね。どう見ても雑草でしょう。)

踏まれても踏まれても立ち上がる雑草。冬枯れの野にあっても、地下でしぶとく根を張り、少しの日の光に芽を出す。
春になれば黄色いほっこりとした花を咲かせ春の訪れを知らせ、見る者に安らぎを与える。
例え風に吹かれようが負けることなく、綿毛に包まれた種を飛ばし、密やかに、着実に大地に新たな根を張っていく。

(私も根を張られた1人、ということでしょうかね。)
「夕鈴殿。」
声をかけると、薄い肩がびくりと震える。恐る恐る李順を見返した夕鈴に、あるものを差し出した。
「貴女がこの教本を理解できないであろうことは想定の範囲内です。これをお使いなさい。」
それは几帳面にこよりで製本された、一冊の教本だった。


「すごいっ!すごいです李順さんっ!この『主婦でも分かる国政の基本~経済編~』!!つまり大根を買おうと思ってたのに、ちょっとお高い蕪しかなくって、そういう場合はへそくりから穴を埋めるってことですね!それで家計簿を調整する、と。」
夕鈴は興奮して教本を握りしめている。どうやら上手くいったようだ。
「その通りです。貴女は長年主婦業やってらしたんですから、言葉の意味さえ理解できればこのあたりは大丈夫でしょう。経済観念も貴族の子女より勝っている数少ない長所です。ここを生かさない手はありません。」
「しかも可愛い絵までついてて分かりやすいし。この教本ってどちらで求めたものですか?」
「私が貴女用に作ったものです。」
あっさりと答えると、びっくりした顔でこちらを見つめる。
「……お仕事の後、わざわざ作って頂いたんですか?」
どうやら李順の眼の下の隈に気付いたらしい。
「貴女を正妃に。それが私の仕事ですからね。」
「李順さん―――」

夕鈴は感極まってしまったのか、下を向き、肩を震わせる。
(人に素直に感謝できるのもまぁ長所ですね。)
そう思った次の瞬間。

「ぶえぇっっくしょーーーーーーーい!!!」
李順の磨き抜かれたメガネにきらきらとしぶきがかかる。

誰か、下町娘を正妃にだなどと、悪い夢だと言ってくれませんか。

「夕鈴殿!!!貴女という人はっっっ!!!私があれだけくだらない特訓につき合ったくしゃみ一つ満足にできないんですか!!!!」
「すすすすすみません李順さん!しばらく下町に帰ってたら、すっかり元に戻っちゃって……!!」
「言い訳は無用!!明日から講義を増やさせてもらいます!」

正妃への道は遠く、嶮しい。


後記。
どうしても夕鈴を書きたくなって天狼星を書かず脱線しました。
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コメント

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2015-04-18 Sat 19:07 | | [ 編集 ]
あい様。
笑って頂けてよかったです(*^_^*)天狼星が暗いのでちょっと明るい話も、と思いまして。
李順さんはきっと夜中に真顔で大根の絵とか細かく描いてたと思います。
ウサギのイラストも描いて「ここは重要だよ!」とか。
凝り性っぽいですよね。やっぱり装丁は薄ピンクとかですかね。
眼鏡に曇りがないのもデフォルトで!
2015-04-19 Sun 01:12 | URL | rejea [ 編集 ]

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