星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

蛍火

夏に書くつもりだった話……
今更感がすごいです。すみません。
考えたら「狼な嫁~」の前に書いたらよかったです。
いつものことですが無計画。

最近ゲスづいているので、ひと夏寝かせた(つまり放置)王道目指したネタを。
設定は新婚編の夏です。
それではどうぞ。







物おもへば沢の蛍も我が身より
あくがれいづる魂かとぞみる

後拾遺和歌集より  








「夕鈴、今年もお疲れさま。大変だったでしょ?」
にこにこと笑う陛下の笑顔がかわいくて、私も微笑んだ。
「いえ、前回基本は勉強しましたから。
でも、ちょっと難しい話が増えて、頭がこんがらがりましたけど……」

ここは星離宮。
私達は去年に続いて祭祀のためにここを訪れた。
雰囲気はちょっと怖いけど、実はとっても乙女な女官さんたちにも久しぶりに会うことができた。
彼女たちは想像以上に再会を喜んでくれて、前にも増して熱心に星座にまつわる伝説や儀式の意味を教えてくれた。
その熱の入った指導もあって、なんとか今年もやり遂げることが出来たけど、結局陛下とゆっくりする時間はあまりとれなかった。
陛下は陛下で、李順さんにたっぷり仕事を持ち込まれたようで。
ぶーぶー言いながらも今回は割と真面目にこなしていた。

だって、その……
去年と違って、夜は私と同室だから、全く会えないわけじゃないし……

勉強続きで疲れてうとうとしていると、陛下が抱っこして寝台まで運んでくれて。
そっと頭を撫でてくれるのが温かくて気持ち良くて。
朝まで二人でゆっくりとくっついて寝られるのがすごく嬉しい。

後宮とはまた違う、穏やかな時間が流れている。
やっぱり来てよかった。
心からそう思う。

「ねぇ、夕鈴。これから少し遊びに出かけようよ。」
「え?今からですか?かなり夜も遅いですけど。」
「だって、結局今年も遊べなかったからね。せっかくここまで来たんだから、僕はお嫁さんと遊びたい。」
やっぱり不満はあったみたい。
私は素直に従うことにした。
本音を言えば、儀式も終わったことだし、私も陛下と思いっきり遊びたかったし。
「でも、今年は雲が多くて星も去年ほどは見えませんし……何しましょうか?」
考え込む私を見て、陛下がいたずらっ子みたいに笑う。
「こんな日にぴったりのものがあるよ。見つからないように抜け出そうか。」


真っ暗な道を灯籠を持った陛下に手を引かれ、進む。
「舗装はされているけど、転ばないように気をつけてね。」
去年もこうして手を引かれて歩いたんだっけ。
まさかあの頃は本当の夫婦になってもう一度ここに来るなんて、考えてもいなかったけれど。
幸せすぎて、今がまるで夢のような気がしてきて。
なんとなく不安になって、暗闇の中、先を歩く陛下の手をぎゅっと握った。
そんな私に陛下も、繋いだ手を強く握り返してくれた。


しばらく進んでいくと、闇の中からさらさらと水の流れる音が聞こえてきた。
「もしかして去年言ってたキレイな川って、ここのこと?」
「当たり。夕鈴、よく覚えてるね。」
「そりゃあ、ほんとはすっっごく遊びたかったんですもん。忘れませんよ。」
悔しがる私に、陛下は楽しそうに笑った。
「僕の方も辛かったなー。李順と二人で来たんだけど、仕事の話しかしなかったし。
心底つまらなかったよ。
あんな堅物と出掛けたいなんて娘はそうそういないだろうな。」
あら。陛下は知らないみたい……
「実は、李順さんってけっこう人気あるんですよ?私に付いてくれてる侍女さんたちに。」
「えっ、そうなの?それは初耳だな。」
「みなさん控えめですから。
実は陛下と李順さんがいないところでかっこいい、とか素敵って話題になってますよ。
確かに仕事もできるし、若いし、独身だし、将来有望だし。
厳しいのは主に私と陛下に対してですし。さりげなく顔も整ってますもんね。」
何の気なしに言った言葉に陛下は眉をひそめた。
あれ。なんか、灯籠の明かりに浮かぶ陛下の顔が怖いんですけど……
「面白くないな。李順とは言えど、君が他の男をそこまで讃えるのは。」
「いや、私がじゃなくて、侍女さんたちが、ですよっ!?って、陛下っ!聞いてます!?」
気付いた時には陛下の力強い腕が、私の腰をがっちり捕らえていた。
「それでも面白くないものは面白くない。
君のその形のよい唇から紡がれる男の名は、常に私だけであって欲しいものだな。
夕鈴……」
あっという間に狼になった陛下が私の唇に触れる。
本当にもう、この人ってば。油断も隙もないんだから。
「陛下、ほどほどにお願いします!遊びに来たんでしょう!?」
慌てる私をしばらく黙って見つめた後、陛下は苦笑した。
「そうだね。
このまま君に思うまま口付けたら、きっとすぐにでも帰って君の全部を食べてしまいたくなるだろうし。」
そう言っていたずらっぽく笑った陛下は、ちゅっと音を立てて私に口付けた。
「今はこれだけ、ね。」
……全く、ほんっとに油断も隙もない夫なんだから。
暗闇の中、私は赤い顔が見えなくてよかったと心から思った。


手を引かれ、川の畔まで降りていく。
下草がきれいに刈られていて、思ったより歩きやすい。
「さあ、着いたよ!」
「ここ……ですか?」
月明かりもない川の岸辺。
ただ、せせらぎだけが優しく耳に届く。
「真っ暗、ですね。」
「そろそろ時間だと思う。少しだけ待ってて?」

陛下に言われるまま佇んでいると。
下草や川面がちらちらと控え目に瞬き始める。
それは時と共にどんどん数を増していく。
「うわぁ……すごい!」
気がつけば、辺りは飛び交う蛍の光に包まれていた。
「今日みたいな月明かりも風もない夜は多く飛ぶんだ。」
「こんな遅い時間に?」
「大体、一晩に三度。一番多く飛ぶのは祭祀をやっている時間だけどね。
今は二度目で、三度目はもっと遅くなってかららしい。」
ちょうど良かった、と言って陛下は笑う。
きっとお仕事をしながらも調べてくれたんだろう。
この人は、どんなときも私に優しい。
胸がぽかぽか温かい。
陛下と私は寄り添って蛍を見つめた。
黙ったまま見惚れていると、陛下が歌を口ずさんだ。


「―――君を思いし我が心
    あくがれいづれば蛍火(けいか)となりて
    沢の水面を照らしゆく

    焦がれ燃ゆるは蛍か我か
    君はいづれと見たもうか―――」

私は初めて聞く陛下の歌声に、耳をすませた。
陛下の低く、澄んだ声が静かに夜空へ溶ける。
蛍の光と、川のせせらぎ。そして陛下の囁くような歌声。
私を包む、そのすべてが。
なんて、きれいなんだろう。


「……きれいな歌ですね」
思わずほうっと息が漏れる。
「古い歌だよ。君と見ていたらふと思い出した。」
「陛下、歌も上手なんですね。知らなかった!」
「らしくない?」
驚いた私に陛下が微かに笑う。
「いえ、すごく……素敵です。」
顔が思わず赤くなる。
あんな声で好きな人に歌を歌われて、どきどきしない人なんていないと思う。
「不思議だな。今まで嗜みとして古歌や詩を学んできたけれど、つい口ずさむことなんてなかった。」
陛下は私の手をとって続けた。
「どんなに切ない詩を学んでも、心が揺れたことなんてなかった。
夕鈴、君と出逢うまでは。
きっと僕の心は、君に逢ってから初めて息をし始めたんだ。」

何も望まず、何も求めず。
ただ国を守るために。
自分のものは何ひとつ持たない、独りきりの王様。

陛下の心は、冷酷非情な王様として振る舞いながら、じわじわと冷えて固まっていったんだろう。
私は、一度後宮を去った時の陛下の暗い瞳を思い出した。
思わず、強く手を握り返す。
そんな私の頬を、陛下は大切そうにそっと触れた。
「さっきの歌、意味はわかる?」
「なんとなくは……大事な人に宛てた歌、ですよね?」
陛下は、ふっと笑った。
雲間から月が顔を出し、陛下の顔を照らす。
紅い瞳が、私を捉える。
月明かりと蛍の淡い光に照らされる陛下の顔があまりにもきれいで。
私は息を飲んだ。
「蛍はね、相手を恋い慕って光るんだよ。強く光りながら水面を飛ぶのが雄の蛍。
……愛しいと思う心が、蛍の光になって水面を飛んでいる。
貴方は焦がれ燃えるあの光を蛍と見るか、私と見るか。どちらだろうか―――
これが先ほどの歌の意味。」
陛下の手がするりと唇へ回る。
指先で愛おしそうに触れながら、陛下は続ける。
「下草に留まって、控えめに光るのが雌の蛍だよ。
恥ずかしそうにしてはいるが、それでも雄を恋い慕い、光らずにはいられない。」
陛下の腕が私を強く引き寄せ、捕える。
「夕鈴。私もあの蛍と同じだ。
どれだけ唇を、肌を重ねても。それでも君を恋い慕ってやまない。
いつでも君に焦がれている。」
陛下の吐息が唇にかかる。
紅い瞳が、弄るように私の心を探る。
「君は?私を愛しいと……私が欲しいと思っている―――?」

陛下は、ずるい。
わかっているのに、わざとこういう聞き方をする。
私も、あの雌の蛍と同じ。
恥ずかしくて、俯いて何も言えなくなっても。
本当は、陛下が欲しい。
心が焦がれてやまない。
去年の私とは違うから。
陛下の……あなたの手で変えられたんだもの。

返事の代わりに、私は自分から陛下へ口付けた。
長い口付けのあと、はあっと息をついて陛下から離れる。
「へいかの、バカ。」
胸元へ顔を埋めてから文句を言うと、陛下が笑った。
「やっと君から私を求めてくれたな。
ここ数日、愛しい君をただ抱きしめて眠ることしか許されなかった私の気持ちをほんの少しでも察してくれたろうか?」

……陛下ったら。
ここにも不満はあったらしい。
去年の私とは違うから。
陛下の望みが何か分かって、私はますます顔が熱くなる。
「夕鈴、今夜は君が欲しい。」
きつく抱きしめてくれる陛下の躰が熱い。
真っ直ぐ、心のまま伝えられるその熱は、私にも伝わる。
私も、陛下に捕われていたい。
陛下が欲しい。
「―――はい、陛下。」

星空のように輝く蛍の光の中で、私たちはお互いを離さないよう抱きしめる。
来年も、こうして二人で来られるかしら。
腕の中でそんなことを考えていた私に、陛下は呟くように言った。
「来年は、三人かな。」
思わず私は笑った。

来年も、再来年も。
その先もずっとずっと。
もう独りになんてさせないから。
どんどん、あなたに幸せを運ぶから。

「陛下、大好き。」
私は、あなたに焦がれ続ける。





後記。

元ネタは和泉式部が夫の心変わりを嘆いたしょめしょめした和歌です。

だけど~、情熱的に口説いて欲しかったから~♪
適当に変えちゃった~~~♪←ふざけんなと石を投げたくなった古典好きの方、ごめんなさい。

珍しくまともに書こうとしたら、思いついてから書くまでにひと夏かかっちゃいましたよ。
本当に向いてないな!!王道。












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コメント

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2015-09-12 Sat 10:23 | | [ 編集 ]
あい様。
ニヨニヨして頂けてほっとしました(^-^;)
何回も自分に「陛下はかっこいい陛下はかっこいいおふざけなし!」と言い聞かせて書いたので嬉しいです!
まともな狼っぽい陛下を書いたのなんて、正妃養成講座以来ないのかも…

新婚編で星離宮とか壬州とか、甘々の新婚旅行に行って欲しいですね(≧∀≦)
はしゃぎまくり羽目外しまくりの陛下が見たい!
2015-09-14 Mon 08:15 | URL | rejea [ 編集 ]

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