星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

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簪の贈り物

さて、「氷雨の追憶」が終わったところで、本題です。
狼いじりに新しい生き甲斐を見いだした蘭瑶様。
「嵐呼ぶ、花々の茶会」にて、瑠霞姫と二人で悪だくみをした続きになります。



妃が狼に執拗に悪戯されて立てなくなった日の翌日。
赤い顔を扇で隠した妃を瑠霞姫と蘭瑶は茶席にて出迎えた。
もちろん、その間には少し緊張した面持ちの晏流公も座についている。
「昨日は、顔を出せず失礼致しました……」
恥ずかしくて泣きたいといった様子の妃に瑠霞は笑いを抑えられなかった。
「そんなことお気になさらないで。体調もすっかり良くなられたようで良かったわ。」
にこにこと妃に向かって微笑んだ。
一方の蘭瑶は何時もと変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべたまま、じっと妃を見詰めている。
「それで、先日のお妃様の艶やかな姿は陛下に喜んで頂けましたかしら?」
うきうきと問い掛ける瑠霞に、夕鈴は申し訳無さそうに、小さくなって答えた。
「それが……私には、少し、大人っぽいのではないかと。
すみません。せっかくお二人が心を砕いて下さったのに、私に色気が足りないばっかりに……」
あら、まあ。
瑠霞と蘭瑶は思わず視線を交わした。
足腰が立たなくなるほど愉しんだくせにその台詞。
瑠霞は思わず溜め息を吐き、蘭瑶は子供じみた嫉妬ぶりに思わず緩む口許を袖でそっと隠した。
「それだけしか言わなかったの?あの子ったら。本当に困った甥っ子だわ……」
瑠霞は王宮の方向をじろりと睨んだ。
「……お妃様。元気を出して下さいませ。今日は日頃のお礼にお渡ししたい物がありますの。ねぇ、晏流公?」
蘭瑤の声に、落ち込んでいた夕鈴は顔を上げた。
「何でしょうか?」
「はいっ、あの、お妃様。こちらを。」
頬を染めながら、晏流公はいそいそと小さな桐の箱を袂から取り出した。
卓の上でそっと蓋を外すと、中には美しい簪が納められていた。
簪の先端に輝く丸い玉石の、紅く透き通った深い色合いは夕鈴に黎翔の瞳を思わせた。
「きれい……」
思わず呟いた夕鈴に、晏流公はほっとしたように笑った。
「お妃様への、私と母上からの贈り物です。」
「ええ!こ、こんな素晴らしい物、私にはもったいないです。頂くなんて……」
慌てる夕鈴を宥めるように、蘭瑶は言う。
「これは、もともと私が若い時に作ったものなのですが、挿す機会がなかったの。どうかお気になさらないで。
意匠はお妃様のお好みに合うよう、飾り職と晏流公とで話し合って変えましたのよ。」
「地金の部分は私が磨きました。」
にこにこと顔を合わせ、仲むつまじく簪の様子を語る親子の様子に、夕鈴の落ち込んだ気分も上向いた。
確かに、丸い玉石を引き立たせるよう控えめに付けられた金の飾りは、慎ましい夕鈴の好みに良く合う意匠である。
「この玉は、柘榴石というんだそうです。兄上の瞳に良く似ていますでしょう?
もし兄上が政務でお忙しくても、これがお傍にあればお妃様が寂しくないのではないかと思って……」
恥ずかしそうにもごもごと口を動かす晏流公の可愛らしさに、夕鈴は抱きしめたい衝動を必死にこらえた。
「ありがとうございます!すごく、嬉しいです。大切にしますね。
今、挿してみても良いですか?」
「はい!もちろん。」
二人の和やかな会話に、微笑む侍女たち。その中に一人、明らかに顔色を変えた者がいた。
蘭瑶は桐の箱を手にとり、その侍女に差し出した。
「お怪我のないよう貴女がよく確かめてからお妃様に挿して差し上げなさい。」
注意深く受け取った侍女の様子に、蘭瑶も瑠霞も、彼女が黎翔の息の掛かった護衛であることが充分伝わった。
簪の先端に毒でも仕込めば、人一人殺すことなど容易だ。
ただ、妃は全くその可能性を考えて居ないのだろう。
本当にここは昔の後宮とは違うのだと、二人は改めて感じた。

「うわぁ、よくお似合いです!お妃様。」
晏流公は嬉しげに、簪を挿した夕鈴へ讃辞を贈った。
「先日はとてもおきれいでしたけど、今日はとても可愛いです。やっぱり私の見立てに間違いはなかったです。」
得意げな晏流公を見て、夕鈴も笑った。
「ふふ、ありがとうございます。」
「お妃様、簪に合う花を探して一緒に挿したらいかがでしょう?幸いここはたくさん花が咲いていますし、それなら兄上のお好みにも合うのではないでしょうか。」
落ち込んだ夕鈴を晏流公は懸命に慰め、気分を盛り立てようと気を配る。
小さいけれど、それはまるで一人前の恋する男のようだった。
蘭瑶と瑠霞は二人の様子を愛しげに眺めやり、侍女達に花摘みについて行くよう促した。

「あの簪、貴女がまだ持っているとは思わなかったわ……」
瑠霞は遠い目をして言う。
「柘榴石の意味するものは『真実の愛』だったかしら。」
「知っていたの?」
「あの後、調べたのよ。何故あの時貴女が簪を挿さなかったのか、どうしても気になって。
……挿さなかったんじゃない。挿せなかったのね。」
瑠霞は視線を蘭瑶へ戻した。
「あの頃の私は、自分の信じるものが正しいのだと貴女に押し付けた。
今にして思えば残酷だったわ。」
そう言う瑠霞の声は昔のままに真っ直ぐだった。
「今更ね。それにもういいのよ。やっと手放せたのだもの。」
蘭瑤は眩しそうに夕鈴と晏流公を見た。
もうあの簪がなくても私には瑛風がいる。
王弟としてではなく、ただ一人の息子としての瑛風が。
簪を手放そうと決めたとき、唐突に気付いたのだ。失ったからこそ、見えるものがあると。
それは確実に、瑛風と自分に一人の人として接してくれた風変わりな妃の影響なのだろう。
「どうしてお妃さまに?」
静かに問う瑠霞に、蘭瑤も静かに答えた。
「何だか、あのご夫婦を見ていたら馬鹿らしくなったのよ。いつまでも簪を眺めて昔の思いに縛られている自分が。
それにあのお妃さまなら、幼い私が夢見ていたものを手に入れられるかもしれない。
そう、思っただけよ。」
「本当に?」
「勿論、また馬鹿馬鹿しく嫉妬する狼の様を見られるという特典も漏れなくついてくるでしょうけれど。」
「それはもう言うまでもないでしょうね。」
にやりと笑った瑠霞は言う。
「貴女のことですもの。
もし、お妃さまも後宮の毒に染まって、自分と同じようにあの簪を見詰める時が来たとしたら、それはそれで面白い―――
そうも思ってるんじゃなくて?」
蘭瑤はそれには答えずに芳しい花茶を口に含んだ。
「本当に怖い方ねぇ。蘭瑤様って。」
「分かっていても止めない貴女ほどではないわ、瑠霞姫。」
「あら、私はあのお妃さまを信じてるもの。甥っ子はどうだかわからないけどね。」
「酷い叔母君だこと。」
くすくすと笑う二人の視線の先が騒がしくなる。
どうやら、政務室を抜け出した陛下が妃の様子を見にやってきたらしい。
目敏く簪に気付くと案の定不愉快そうな顔をしている。
しばらく見ていると、晏流公からの心尽くしの贈り物にケチをつけられた妃に怒られ、王宮へとしぶしぶ戻らされるようだ。
「ああ、お妃さまのああいうところ、やっぱり嫌いになれないわ。」
「あらあら、あの子ったらこっちを噛み殺しそうな目つきで睨んでるわよ。
もとはと言えば着飾った妻に賛辞の一つも贈れない自分が悪いクセに。
少しはお妃さまに冷たくされれば反省するかしらね。」
楽しく茶を喫する二人のもとへ、落ち込んだ様子の晏流公とぷりぷりした夕鈴が戻って来た。
「私は、余計なことをしてしまったのでしょうか……」
肩を落とす晏流公に、夕鈴は慌てて言った。
「ち、違いますよ晏流公!これは私たち夫婦の問題であって、決して余計だなんて……
私はこの簪、とっても嬉しいんですから、どうかお気になさらないで。」
瑠霞も晏流公の肩をそっと抱いて言う。
「大丈夫ですよ。貴方の兄上はたった一輪の花の美しさも保てないほど器の小さな方ではないわ。
ねぇ、お妃さま?」
「え、は、はぁ……」
困惑顔の夕鈴に、瑠霞と蘭瑤はにっこりと笑いかける。
「それでも着飾った妻に誉め言葉一つ贈れない夫は、私たち少し困らせてやってもいいと思いますの。」
「とりあえず五日ほどお渡りを差し止めてみてはいかがでしょう。そうしたら陛下もきっとお妃さまのお気持ちを考えて下さるでしょうから。」

それもいいかもしれない。夕鈴は先ほどの黎翔の様子を思い出し、頷いた。
いくら自分に色気が無くてこの美しい簪が似合っていなくても。
真剣に意匠を考え、また丁寧に磨いてくれた瑛風様の気持ちを酌むこともなくあんな不愉快そうな顔をして。
今度ばかりは少し頭を冷やして貰おう。
やっぱり夫婦の問題は、既婚者に相談するに限るわ。

こくこくと素直に頷く妃に、蘭瑤も瑠霞も笑いを堪え切れない。
「あぁ、なんて素直な方。本当に見ていて飽きないわ。」
「もう、なんて可愛らしいのかしら。やっぱり帰国は一週間延ばすことにしましょう。
顛末を見届けなくっちゃ帰れないもの。」

春の日差しが暖かく後宮に降り注ぐ。
かつてとは違うこの後宮で、どのような愛が育まれるか、お二人のお手並み拝見といきましょう。
蘭瑤と瑠霞はいたずらを企む子供のように笑い合う。
妃の髪の上では、紅い柘榴石が陽の光を浴びて美しく輝いていた。




後記。
そんなわけで、瑛風様のよい子パワーで生まれ変わった簪は夕鈴の手許へ。
「真実の愛」を手にするのか、自分と同じ所へ堕ちてしまうのか。
蘭瑤さまは本当はどっちを望んでるのか、書いた私にもわかりません(笑)
多分揺れ動くご夫婦をニラニラ見ていたいんだと思います。
ゆらら様。「ほの昏き楽しみ」お待たせいたしました!
ほの昏い感じ出ましたでしょうか??

さてさて、次はこの話の陛下・夕鈴サイドの続きです。
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コメント

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-06-22 Mon 02:52 | | [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-06-22 Mon 09:00 | | [ 編集 ]
夕鈴は毒花の毒気をも抜いてしまうのね。
真っ直ぐで素直で(笑)
それに引き換え、陛下ったら。
うふふ、閨差し止め五日間の刑を受けるがいい!
悶々とする陛下も好み←
でもその後がね(≧∇≦)
2015-06-22 Mon 11:12 | URL | くみ [ 編集 ]
毒花の会話が怖い…(°°;)ガクブル
よい子パワーで怨念簪(笑)が生まれ変わった~(^^)
さぁ!夫婦の問題がどう転がって、絡まって行くのか私も毒花さんに混じってお茶飲みながら四阿から覗きたい(≧▽≦)
2015-06-22 Mon 11:31 | URL | 行 [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-06-23 Tue 00:45 | | [ 編集 ]
Re:
あい様。
笑って頂けて良かったです(^-^)
「追憶」が私の趣味に走り過ぎたので暗くて暗くて(笑)

この流れだと四阿は春爛漫でも、政務室は氷河期みたいになりそうですね。夕鈴も顔出さないでしょうし。
水月さんは心の風邪でもひいてしまいそう…
2015-06-23 Tue 18:26 | URL | rejea [ 編集 ]
Re:
ますたぬ様。
はじめまして。
コメント頂きありがとうございます。
そして夫婦いじりを笑って頂けて嬉しいです(*^_^*)
引かれなくて良かった!
よろしければこれからもお立ち寄り下さいませ。
駄文を用意して(←頑張れ自分)お待ちしております!
2015-06-23 Tue 18:36 | URL | rejea [ 編集 ]
くみ様。
本当にお妃様は最強ですね~!SSでもいるといないじゃ大違いです。
当ブログの夕鈴のいない話の暗いこと暗いこと…

悶々とした後が大事ですよね。
ちゃんと仲良くしてくれないと晏流公がかわいそう(笑)
2015-06-23 Tue 18:43 | URL | rejea [ 編集 ]
Re:
行様。
瑠霞姫さま!四阿に一席追加でお願いします!
もちろん花茶付きで!

怨念簪(笑)
百物語に出てきそうな素晴らしいネーミング、ありがとうございます(^_^)b
夜な夜な泣き声とかしそうで良いですね~
2015-06-23 Tue 18:47 | URL | rejea [ 編集 ]
ゆらら様。
笑って頂けて良かったです(*^_^*)
ゆらら様のコメント頂いたことでかなり楽しんで「簪編」書けてます♪
こちらこそありがとうございました!

次でさらに犬も食わない夫婦喧嘩を演じてもらおうと思います。
その後いちゃいちゃできたらいいなーと思ってます。思ってはいるんです……
陛下頑張れ!そして私も頑張って書け!
2015-06-23 Tue 19:35 | URL | rejea [ 編集 ]

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