星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

白陽帝国の花嫁 13

サブタイトル「衛生兵の予期せぬ告白」
こちらはパラレルです。

怒りに燃える下町のアニキと狼元帥が初遭遇です。
アホな展開ですいません……
とりあえずここでひと段落です。

馬鹿馬鹿しい話が苦手な方はスルーなさって下さいませ。



※前回の話の最後、几鍔サイドよりスタートです。途中で絵面がおもしろそうなのでらくがきイラスト挟んでます。
興味ない方はスルーして下さいませ~。


几鍔は道行く人々が思わず振り返るほどの早さで下町を駆け抜け、目的の宿屋へとやってきた。顔見知りの主を捕まえ、噛みつくように怒鳴る。
「おい、オヤジ!ここに女連れの軍人が来てるだろ!どこにいる!?」
ぎらつく目をした几鍔に宿の主は目を白黒させた。
「おいおい几家の坊ちゃん、あんたの頼みでもそれを教えるのはまずいなぁ。随分お代も弾んでもらったし、あの二人はどう見ても訳ありだったし。宿屋の主としてはそう簡単に……」
言い渋る主の顔の横すれすれに几鍔は無言で拳を突き入れた。激しい音と共に板張りの壁に穴が空く。
「……女は俺の知り合いだ。どこにいる。」
主は震えながら階段を指差した。
それを見るや否や、几鍔は階段を駆け上がった。
二階に並ぶ部屋の中で、一番奥の扉だけが閉ざされている。おそらくあそこだ。
もしも刃物などで夕鈴が脅されていたらと考えると、安易な侵入は危険だ。扉の前で中の気配を探るように、几鍔は気配を消しつつ耳を寄せた。
男女の声が漏れ聞こえる。さらに耳を寄せると、なんとか聞き取ることが出来た。
「……もうっやだったら!……痛っっ!」
「暴れるからだ。もう、諦めて大人しくしろ。」
その声を耳にした瞬間、几鍔は扉を蹴破った。
中に踊り込んだ几鍔の目に入ったのは見たこともない半裸の男と、白いシャツ一枚と妙な靴下だけを身に付けた夕鈴の姿だった。

あらすじ イマココ

さらに男は今まさにその妙な靴下を夕鈴からはぎ取ろうと彼女の細い足に手を掛けていた。
几鍔の体中の血が沸騰した。怒りのあまり手が震える。その震える手を固く握ると、几鍔はそのまま半裸の男に向かって突っ込んだ。
「てめぇっコイツに何してやがる!!」
怒りを乗せた拳を思い切り男の顔面に向かって上から振り下ろすように突き出した。対する半裸の男は床に膝を立てた体勢。完全に頬にめり込むはずだ。
だが、突き出した拳は半裸男の片手でとん、と力の流れを軽く逸らされる。そしてそのまま顔の前を過ぎゆく腕を、男が凄まじい速さで掴む。大して力を入れている風でもないのに、全く動けない。
「このダダ漏れの殺気と荒い動きは敵国の間者という訳でもなさそうだな。お前は何者だ。」
凍りつくような目線にさすがの几鍔も一瞬気を呑まれた。だが、ここで怯えて下がるわけにはいかない。
「お前こそ、コイツをどうしようってんだ!!」
一触即発の空気に、呆気にとられていた夕鈴が我に返った。
「ちょっと几鍔!なんでアンタがここにいるのよ?」
体を隠すようにシーツを巻きつけながら叫ぶ。
「夕鈴の知り合いか?」
黎翔は掴んでいた腕を緩めた。几鍔は舌打ちをしながら腕を振って黎翔の手を振りほどく。
「私の腐れ縁の幼馴染で……っていうか、几鍔!アンタ、扉まで壊して本当に何してんのよ!」
「なっなんだその言い方は!こっちはテメーが攫われたっていうからこうして来てやったんじゃねぇか!本当にかわいくねえ女だな。」
「いや、夕鈴ほど可愛らしい女など私は見たことがないが。」
二人の会話に割って入った黎翔を、几鍔はギラリと睨みつけた。
「こんな真昼間から宿屋なんかに連れ込みやがって。こいつ、どうせ碌な奴じゃねぇんだろ?」
「なっなんてこと言うのよ!この人は職場の上司で、用水路に落っこちた私を気遣ってくれてただけよっ!!」
「職場の上司って、お前。どうしたら上司にそんなへんてこな格好にされるんだよ。」
呆れた几鍔にまたしても黎翔が割って入る。
「へんてことはなんだ。お前にはこの至上の美が分からんのか。このシャツの裾からニーソにかけての芸術的な隙間が……」
「コイツを変な目で見るんじゃねぇ!!」
「あーもう、李翔さんは黙ってて下さい!!」
二人に息もぴったりに怒鳴られて、黎翔は落ち込んだ。
目の前にあるのは、敢えて考えないようにしてきた可能性そのものだったから。

―――夕鈴には、仲の良い男性がいるのではないか。もっと気軽になんでも話せるような。
そもそも、血煙りと硝煙に塗れた軍人である自分に、この穢れの無い少女が相応しいとは口が裂けても言えない。言ってはいけないと思う。
下町にある、彼女の幸せ。そこに自分の姿は無い。
この青年なら彼女に明るく温かな幸せを与えることができるのだろうか。

沈む黎翔を置き去りに、二人はますます怒鳴り声を上げて罵り合う。
「そもそも、自覚が足らな過ぎなんだよ、この馬鹿!!」
「馬鹿とは何よっ。自覚ってなんなのよ!李翔さんは親切に手当てしてくれてただけなのに失礼じゃないっ!!」
ちっとも伝わらない真意に、几鍔はもう言ってやれと半ばヤケクソに叫んだ。
「だから、そもそも好きでもねぇ職場の上司と、こんな格好で宿屋に二人きりってのがおかしいって言ってんだよ!!!」
「それこそ馬鹿はアンタの方よっっ!いくら私だって、好きでもなんでもない人とこんなとこで二人きりになんてならないし、そもそも何とも思ってないなら、こんなにドキドキして困ったりしてないわよ!!!」

「あっ……」
「えっ……」
「……はぁ?」
三者三様の呟きが漏れた後、室内は静寂に包まれた。

ゆでダコのように赤くなったまま、口をぱくぱくさせている夕鈴。
同じく白皙の美貌をじわじわ朱に染めながら、それを隠すように口元に手を当てる黎翔。
そんな二人を眉を顰めて見つめる几鍔は全てを悟った。
(……つまり、アレだ。俺は今、馬に蹴られて死んでも可笑しくない立場か。)
はぁーっと大きな溜息を吐いて、几鍔は頭をがしがしと掻いた。しかもどうやら、自分の言葉をきっかけにお互いに好意を持っていると理解が成されたようだ。
―――やってられるか。
「とりあえず俺は帰るけどな、そこの軍人。コイツ泣かせたら下町の連中が黙ってねぇからな。くれぐれも適当なことはすんなよ。」
本当に馬鹿馬鹿しい。この場で同じ空気を吸うことすら嫌になる。几鍔はさっさと部屋を後にした。胸がむかむかしてしょうがないのは、きっとあまりに馬鹿馬鹿しい痴話喧嘩に巻き込まれたからだ。
(そもそもアイツが女扱いされてるのも気に食わねえけどな……)
苛つくような空しいような気持ちを抱えたまま、几鍔はもと来た道を戻って行った。

一方、残された二人は真っ赤な顔のまま黙って俯いていた。
暫しの沈黙の後。
「あ、あの、夕鈴。さっきのは、その……聞き間違いではなく、私の事を気に入ってくれているととっていいのだろうか。」
意を決して黎翔は夕鈴に問いかけた。
「ここのところずっと避けられているし、また嫌われたのではと思っていたんだ……」
返事が無いので、黎翔はずっと胸に抱えていた不安を口にした。その言葉を聞いて夕鈴はばっと顔を上げた。
「ちっ、違うんです!あの……私、恥ずかしくてどうしていいか分からなくて……逃げ回ったりして本当にごめんなさい。」
思わずといったように立ち上がる。その拍子に体に巻いていたシーツがするりと、床に落ちた。
「嫌いなんかじゃないんです。わ、私、元帥のこと……好き、です。好きなんです!」
真っ赤な顔で、ぎゅっと拳を握って懸命に言葉を紡ぐ夕鈴。その必死で真っ直ぐな言葉は確実に黎翔の胸を撃ち抜いた。
「っ……ゆう、りん。」
夕鈴も言葉が出ないほど驚いた。黎翔の顔が今までに見たことが無いくらい赤く蒸気している。
(この人、本当に私のこと……)
愛しくて、胸がいっぱいになる。
自分を見つめる黎翔の瞳は潤んで、紅い宝石のように煌めいている。
(きれい……)
夕鈴は愛しさを噛みしめるように黎翔を見つめ続けた。

黎翔も突然の夕鈴からの告白に、言葉を継げずにいた。
先程、届かない思いなのかもしれないと思いつつ、やはり諦めきれない自分に気付いたけれど。
まさか彼女も同じように自分を思ってくれているなんて。
嬉しさと愛しさで、胸が痛い。
……胸。
夕鈴の真っ赤な可愛らしい顔ばかり見ていて気付かなかったが、そういえば、彼女の胸と腰のあたりだけが色付いている。
黎翔はぐっ、と息を呑んだ。
そこだけ湿り気を帯びたシャツは、薄桃色の布地を紗を掛けたように浮かび上がらせていた。
そういえば、用水路でびしょ濡れになったのだ。ということはつまり下着も……

それに気付いた途端、黎翔の理性は脳内の眼鏡と共に遥か彼方へ飛んで行った。


几鍔がむっつりと帰って行ったのを見届けた宿の主は、恐る恐る二階の奥へ足を運んだ。一体ここで何が行われていたのだろうか。
壊された扉に怯えつつ、そっと頭を覗かせる。主の目に飛び込んできたのは、頬に赤い手形をつけた半裸の男が床に正座しうなだれている前で、お化けのように頭からシーツを被ったまま仁王立ちする少女。
「あ、貴方という人はどうしてすぐそうなんですかっ!!こっちにも心の準備ってもんがあるんですよ!」
「すみませんでした……」
ぎゃあぎゃあ喚く少女とただただうなだれる男。
(やっぱり訳ありな客は面倒くさいなぁ……)
商売相手の几家の坊ちゃんに壁は壊されるし、扉は使い物にならないし。海千山千の主も、今日ばかりは己の運の悪さを嘆くのだった。

ちなみに、「夕鈴・几鍔の修羅場騒動」は尾鰭背鰭に胸鰭までついて下町っ子に瞬く間に広がった。
その為、夕鈴は暫く日帰りでの里帰りもままならなくなったのはまた別の話。





今日も『黒牙』の中央本部棟・執務室では狼元帥と呼ばれる珀 黎翔元帥の鋭い声が響いている。
報告書の山を抱えた方淵は、敬愛する元帥閣下に最近ほんの少し、今までと違う何かを感じている。
凍り付くような鋭さの中に、時折見せる和らいだ目の光。あれは以前の元帥閣下にはなかったもの。
何かしら心境に変化があったかもしれないが、それを自分如きが詮索するのは僭越というものだ。
抱えた書類を提出し、今度は決裁済の書類の山を抱えて執務室を出る。
扉の前で同僚の水月とばったり顔を合わせた。
「久しぶりだ。どうやらしつこい風邪は治ったようだな。」
じろりと睨みながら言ってやると、水月はへらり、と笑って言った。
「衛生兵殿が戻られたからね。ここ最近の元帥閣下の御機嫌なら心の風邪もしばらくはぶり返さないと思うよ。」
「何が心の風邪だ、馬鹿馬鹿しい。あの騒々しいバイトの小娘の休暇が終わったから何だと言うんだ。」
至高の存在である珀元帥を、ただのバイトの小娘が振り回すなど方淵にとっては全く面白くないことである。
「……君は、仕事に集中し過ぎだよねぇ。もっと広い視野で物事を捉えるべきじゃないかな。」
「貴様はもっと仕事に集中しろ。」
「まぁ、根回しやらなにやらでかなり先になるとは思うけど、君も私も忙しくなるだろうね。式典の手配や、楽隊もそれに相応しいものを用意しなければならないし。やはり元帥閣下の荘厳さを表現するには銅鑼がいるかもしれないけれど、あの方の可愛らしい清順さも同時に醸し出したいところだし……」
自分の言葉を聞いているのかいないのか。明後日の方を向いて考え込む水月に、方淵は訝しげに顔をしかめた。
扉の前に佇んだままの二人の耳に、パタパタと軽やかな足音が聞こえる。
「水月准尉、方淵准尉、お疲れさまです。」
「お疲れさまです夕鈴殿。事務仕事も手伝われるようになったんですね。」
「皆さんが前線に行かれている間にほんの少ですが教えて頂いたので。」
夕鈴は書類を抱えて嬉しそうに答えた。
「……ばたばたと品のない。昨日、元帥閣下があまり動き回らないよう仰っていなかったか。」
方淵の言葉に、夕鈴は少し頬を赤くした。
「元帥は大げさなんです。すぐ湿布してもらってもうすっかり大丈夫なのにじっとしてろとか休んでろとか。」
バイト如きが、と叱責しようとした方淵を水月が目線で制する。
「さぁ、あまり我等と話していると元帥閣下がへそを曲げられますよ。」
「っ!し、失礼します!」
夕鈴はさらに顔を赤くして、執務室へ入っていった。
「方淵。君は仕事は出来るのにねぇ。」
くすくす笑う水月に、方淵は不愉快そうに問い掛けた。
「先程から貴様は何の話をしているんだ。解るように言え。」
「やれやれ。では一言だけ、仕事一筋の朋輩殿に。
つまり、狼は狙った獲物を逃がさなかったってことさ。」
それは、つまり。
方淵はぎょっとして執務室の扉を振り向いた。
「まさか、あの何も持たぬバイトの小娘が!?」
「ふふふ。愛だよねぇ。」
執務室の中からは、夕鈴の喚く声と、元帥の笑う声が聞こえる。
「悪夢を見ているようだ……」
呻く方淵に水月は言う。
「家柄も財力も、あの御方の前には何の意味も無いということだろうね。あんな笑い声を聞くのは、私も君も初めてだろう?」
方淵は暫し、執務室から漏れ聞こえる声に耳を傾け、諦めたように深い溜息を吐きつつ頭を振った。

軍事国家、白陽帝国。
その中枢である軍事要塞『黒牙』は、ミニスカートの可愛らしい衛生兵の働きによって概ね今日も平和である。






後記。
長いこと「白陽帝国」を読んで頂きありがとうございました。
とりあえず一区切りつきました。
ガッカリ元帥と衛生兵のしょーもないお付き合いについては、思いついたら書こうかと思います。
とりあえずまずは毒花SSを書きたいです。
その後はちゃんとした陛下とお妃さまも……
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白陽帝国の花嫁 | コメント:8 |
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コメント

残念元帥は残念なままで終わったと…(笑)
さすが!恋愛スキルたまご娘!!そのまま流されてはくれませんでしたね(≧▽≦)楽しかった!
次のお話を楽しみにしてますね~(^_^)ゞ
2015-06-10 Wed 21:12 | URL | 行 [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-06-10 Wed 22:41 | | [ 編集 ]
この話、まだまだ続きが読みたいです。
元帥の『すみませんでした・・・』にウケました。
下町のドタバタが楽しかったです。
アニキのサイドストーリーなども面白そう・・

次は毒花ですか。
シリアスでしょうか。
天狼星のようなお話も好きなので、楽しみです。




2015-06-11 Thu 21:53 | URL | ゆらら [ 編集 ]
行様。
優しいお言葉ありがとうございます!

そうなんです。ガッカリさんとたまご娘ですから……
やっと告白してたまごから出てきたって感じでしょうか。
本物のお妃さまみたいに、狼を受け止められるようになるにはまだまだ修行が必要そうです。
2015-06-12 Fri 01:21 | URL | rejea [ 編集 ]
Re:
あい様。
純白も良いなーと思ったんですが、白シャツから透けないといけなかったのでピンクにしてみました。
何を隠そう、私、濡れて張りつくって色っぽくて好きなんですよ←そろそろヤバイ奴って思われそう……
美青年と美少女はいくらでも透けてもらって大丈夫です!!!←完全アウト

アニキはこの後、里帰りしなくなった夕鈴を心配して軍隊の入隊試験受けます。きっと。
イイ奴ですよね、アニキ。ほろり。

毒花、書いてる途中ですので、もう少しお待ち下さいませ!
2015-06-12 Fri 01:32 | URL | rejea [ 編集 ]
Re:
ゆらら様。
半裸で土下座なんて、陛下は絶対やらないですよね。もはや原型を留めていません、元帥(T_T)
バカップル編も思いついたらぼちぼちですが上げていけたらなーと思っています。
色っぽい展開にはならない感じの二人ですが……
あまりに甘くないので本来の陛下とお妃さまのいちゃつきっぷりを再確認しなければ!
アニキのその後も書いてみたいです。

毒花は前半どシリアスな予定です。
頑張って早めに仕上げたいと思います!
2015-06-12 Fri 01:40 | URL | rejea [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-06-12 Fri 07:50 | | [ 編集 ]
Re:
あい様。
すけすけ夫婦もそのうち書きたいと思います!
チラリズム推奨派としてはご夫婦バージョンも書かねばと思っております。


昨日の夜更けに毒花必死に書いてみたので、お納め下さい。
あんまりブラックにならなかったですが……
蘭瑤様の後宮の話はよりブラックに書いてみたいと思ってます。
2015-06-12 Fri 19:58 | URL | rejea [ 編集 ]

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