星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

初恋の行方

夢であってもなんだか後ろめたいような気持ちがする。
政務に区切りをつけ、忙しい合間を縫い、後宮の立ち入り禁止区域へ向かう黎翔の顔は常より少し複雑だ。

歩きつつ今朝の夢を思う。夕鈴と出会う前は時折見ていた夢。
北の地で捨て鉢な気分になっていた自分に生きろと言ってくれた少女の大切な思い出。それがあったからこそ幾多の暗殺や戦場を潜り抜けてこられた気さえしていた。
でも、ねぇ。
愛しいお嫁さんの前で少女とはいえ他の女の子の夢を見ました、と言っていいものなのか。
最初は黙っていようと思ったのだが、優しい彼女はきっと今の話を聞けば喜ぶ気がして。
(初恋、はまずいだろう。命の恩人だって言って話そうかな。)
そんなことを考えつつ歩いていて、はたと気付いた。
夕鈴の初恋は誰なんだろうか―――
そう言えば聞いたことがない。
もしやあの幼馴染だろうか?
初恋なんて大抵は小さい頃最も傍にいる異性へ向けられる気がする。

そう思うともはや居てもたってもいられない。
聞きたくないが、気にはなる。
回廊を急ぎ歩く黎翔の顔は先ほどよりも明らかに焦っているようだった。




「初恋、ですか。」
膝の上に乗せた夕鈴が少し困ったように言う。
「今、言うんですか?陛下に?」
「うん。そう言えば聞いたことなかったなぁって。ダメ?」
小犬の顔で横抱きにした夕鈴の顔を器用に覗き込む。
「っっいや、その、ちょっと恥ずかしいというか……」
真っ赤な顔が相変わらず可愛いがもうひと押し。
「夕鈴が教えてくれたら僕のも教えてあげるから」
とたんに彼女の体がぴくりと動いたのが分かる。
「ホントのホントに教えてくれます?」
「うん!いいよ。まぁ、初恋って言うか、大事な思い出みたいなものだけれどね」
さりげなく保険をかける。
「よかった!私のもなんというか初恋というにはあまりにもあっさり、というか。憧れみたいなものなので。」
彼女の意外な返答に、興味深々で先を促す。
「母が亡くなって少し経った頃、私1人でいる時に怖い人に連れて行かれそうになったことがあるんです。その時に助けてくれた男の子がまるで王子様に見えて。それっきり、彼には会えなかったんですけど大切な思い出です。」
懐かしそうに目を細めて微笑む。

あの頃王都は荒れていたからそこらじゅうにそんな話があったのだろう。
名前も知らないその「彼」とやらに若干の苛立ちも覚えつつ、幼馴染の彼ではなかったことに心底ほっとした。
「その彼はどんな子だったの?」
「それが、顔はあまりよく覚えていなくて。でも……」
夕鈴は頬を赤らめ、照れたように笑った。
「その子の瞳が真っ赤に見えたんです。宝石みたいにきらきらしてて。ふふ、王族の方が下町なんかにいるはずないから、きっと夕日が映っていたんだと思うんですけど。その子、泣いている私の手に口づけしてくれました。……なんだかホントに陛下みたいですね。昔から陛下みたいな人が好きだったのかも。」

その瞬間。朧ろげだった夢の中の少女の顔が鮮明に蘇る。
そう、手に口づけをした時、彼女も同じ顔をして笑ったんだ。
頭の上に二つにまとめた彼女の金色に輝く薄茶の髪。
その後ろに広がる、切ないほど赤い夕焼け―――


ああ、夕鈴。
君という人は本当に。
抱く腕に力を込める。
「やっぱり、僕の初恋は君だよ―――」
この胸に溢れる、愛しさが全て伝えられるならいいのに。
「ずるいです陛下!!そうやってごまかして!恥ずかしいのにお話したんですからちゃんと教えてくださいっ。」
腕の中で真っ赤な顔をして踠く君の髪に何度も口づけながら耳元で甘く囁く。
「本当だよ。ちゃんと話すから、聞いてくれる……?」

僕の話を聞いた後、彼女はどんな顔をするだろうか。
僕らの10年越しの初恋の行方。二人で見届けよう。いつまでも。



後記。
陛下が何度も戦場やら、暗殺やらで死にかけてもそれに負けなかったモチベーションはなんだったんだろう、と妄想した結果出来上がった話。
陛下を動かすのはいつも夕鈴であって欲しい。少女漫画ですものね。
金色に見えたのは子どもの髪は色素が薄いのと、夕焼けのせい。そのせいで陛下は気付かず。
夕鈴は逆に少年の目が赤いのは夕焼けのせいだと思い込んでて気付かなかったという。
なんか常に摺れ違っててかわいいかなと思いこんな感じにしました。


おまけ。

「まっさか10年越しの純愛じゃったとはのう。お主の妨害工作なんぞハナから無駄な労力じゃったの。」
ふぉふぉふぉ、と笑われ、李順は苦笑する。
檻の前で鉢合わせた張元と李順は甘く囁き合う恋人たちの会話にさすがに驚いた。
「そう言えば陛下がお忍びの際野兎がどうのと言っておられましたが、まさか夕鈴殿のことだとは。あれから陛下は可愛いもの好きになられたんですよ……」
そもそも、年季の入った夕鈴狂であったわけだ。
「全く、事前に分かっていればもっと効率よく対応できたことでしょうよ。」
溜息混じりに呟けば。
「かぁーーーーっ。分かっとらんのう、若造。障害を越えて結ばれてから気付くことこその浪漫じゃろうが!!らぶじゃ、らぶ!!」
「はいはい、左様でございますか。さて、午後の政務の時間ですね。陛下!!至急王宮に御戻り下さい!!」
「本気でお主は空気読まんのお……」
「読んだ上であえて崩してるんですよ。陛下!!!いい加減になさい!!!」
以前にも増した恋の甘さの過剰ぶり。今日も側近の苦労は続くのだった。

ちび夕鈴2

関連記事
スポンサーサイト
両想い設定 | コメント:5 |
<<天狼星について | ホーム | 初恋>>

コメント

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-04-16 Thu 17:16 | | [ 編集 ]
初コメント、感激です。ありがとうございます!
2015-04-16 Thu 18:39 | URL | rejea [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-04-17 Fri 05:04 | | [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-04-17 Fri 17:37 | | [ 編集 ]

あい様。嬉しいコメントありがとうございます。
私もやっぱり、陛下にはいつでも夕鈴を思っていて欲しいんです(笑)
「初恋」は夕鈴の素敵なところをできるだけ詰め込む!という裏テーマだったのですが……
案の定語り切れませんでした(ToT)
拙いブログですが、よろしくお願い致します!
2015-04-17 Fri 21:21 | URL | rejea [ 編集 ]

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |