星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

伴星 ~李順と 荷 文応~

こちらは北にいた頃の話をねつ造した続き物ですので、苦手な方はスルーなさって下さい。
詳しい設定はこちら→天狼星について
李順さんと荷長官しか出てきません。荷長官好きの方がいらっしゃいましたらよろしくお願いします(笑)
因みに私はロマンスグレー好きです。(聞かれてない)

「まだ、仕事をされているんですか、李順殿。」
穏やかな声をかけられ、李順は広げていた書簡から顔を上げた。
「お疲れ様です、荷長官。少し確認しておきたい点がありまして。」
李順がここ壬州の州府で政務の手伝いを始めてから一年近く経とうとしている。
長官である荷 文応自ら李順に補佐としての役割を与え、日々の政務について手ほどきしてきたのだ。
元々利発な性質ではあったものの、半年もする頃にはそこらの文官よりも正確に無駄なく作業している姿には、さすがの文応も驚いた。
「貴方という人は本当に全てにおいて手を抜かない。少しは休みませんと体が持ちませんよ。」
やんわりと休息を取るよう勧めたものの、李順は手を休めない。
「いえ、時間はいくらあっても足りません。明日の政務の準備の後に兵法も学びたいので。」
李順には常に時間が足らない。
自分には浩大や克右のように、直接主である黎翔を守る力はない。ならば、主の為になることはせめて学んでおきたい。
政務の基礎から毒薬の解毒法、人身掌握の心得に怪我の対処。さらには刑法と過去の判例。
黎翔は王弟殿下。万に一つの好機があれば、人の上に立つこともあるだろう。
学ばなければいけないことは無限にある。
それに加えて辺境軍への赴任に備え、兵法も学ばなければ。
(―--御守りする力がないなら、私は私の牙を研ぐだけだ。)

そんな李順をまるで痛ましいものでも見るように、文応は見つめた。
「……そんなに生き急ぐように。貴方はまだお若いのだから。」
文応の言葉に李順は自嘲めいた笑いを浮かべる。
「生き抜くためには、やるべきことはやらねばなりません。」
李順の顔を見つめつつ文応はさらに言葉を継ぐ。
「貴方のような若く優秀な方を直接ご指導でき、心楽しい時間を過ごさせて頂きました。本当はずっとここ壬州に残って居て欲しいのだが……娘の婿になってもらいたかったほどですよ。」
そう告げられて李順は心底意外そうな顔をした。
「御冗談を。そういえばご息女は縁談がまとまったそうですね。おめでとうございます。」
李順からの祝いの言葉を受けた文応は、一瞬苦いものでも飲んだような顔をした。
「殿下の御身を壬州でお預かりすることになった時に一度覚悟を決めた身。今さら命を惜しむこともないのですが―――
殿下が正式に辺境軍へ行かれる前に急いで他家へ嫁がせることにしたのです。相手は貴方ほど優秀ではないが、真面目な男です。もし、私が居なくなろうとも娘を路頭に迷わせることはありませんでしょう。」
他家の者となれば、黎翔に何かがあった時もその責めを文応と共に負わされることも無いだろう。
これは娘を守るために取り得る、文応の最善の策だった。
「……娘に関してはどうしても思いきることができなかった。見苦しいことです。」
文応はほろ苦く笑う。
「見苦しいなどと。貴方は私共の身柄を預かる際、躊躇なくお引き受け下さいました。ご家族のいる身でありながら……なかなか思い切れることではございませんでしょう。」
「実の所、妻にも離縁を申し出たんですよ。巻き込みたくないと。」
李順は目を瞠った。
「……奥様はどのように?」
「舐めないでくださいと、笑って一蹴されました。あれは大人しく見えるが相当のつわものです。私はすっかり頭が上がらなくなってしまった。」
その時の妻の様子を思い出したのか、文応は穏やかに目を細め笑う。
「いい、奥様ですね。」
心から互いを信頼し、敬い、愛する。暖かく微笑み合う二人を想像して、李順の顔は自然と微笑んだ。

そんな李順をしばらく見つめた後、文応は言った。
「いつか、殿下の御心を溶かす春が訪れるよう祈っておりますよ。もちろん李順殿、貴方にも。」
文応の口元は微笑んでいるが、その目は悲しく澄んでいた。
北の地に縛られ凍りついた若い心に寄り添う、春の日差しの訪れ。
今は余りに遠いそれをただ願うしか出来ない自分を憐れむように。

(春、か……)
無理をしないよう言い置いて去っていく文応の背中を見送って、李順は思考する。
自分はそんなものを望むことが許される身なのかはわからない。
ただ一つ言えることは、己の身にいつか春が訪れるとするならば、それは黎翔様が爛漫たる春を手にしてからだ。
あの御方に春が来なければ、私の元へ春が訪れる筈もない。

---その為には、やはり牙を研ぐしかないのだ。
例え脆弱なものであろうが、牛の歩みのように遅々たるものであろうが、私はあの御方を支えたい。
私の唯一の主の為にこそ、この命は存在するのだから。

まずはいつかの春に想いを馳せられる日々を。

辺境軍への正式着任まで後半年。
李順は思いを新たに、もう一度書簡を開いたのだった。



後記。
この直後、李順さんは殿下の部屋に呼び出されて新たな厄介事に首を突っ込んだと知らされます。
詳細はこちら→天狼星 3 蠢動
そりゃあ、切れるさ!

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コメント

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2015-05-04 Mon 06:23 | | [ 編集 ]
Re:
あい様。
私も枯れ専ではないのですが、荷長官のまともっぽさとロマンスグレーに心を掴まれました( ´艸`)
まともな2人の会話はどんなのかなーと思って書いたら、独断と偏見で娘持ちのお父さんになっちゃいました。
原作ではどうなんでしょう?
2015-05-04 Mon 17:49 | URL | rejea [ 編集 ]
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2015-05-10 Sun 01:05 | | [ 編集 ]
Re:
京様。
おじさんは書いていて何故かとても楽しいです♪
ロマンスグレーの上品なおじさま、現実にはなかなかお会いできずにいます。
氾 史晴が55歳くらいになったらすばらしいロマンスグレーになりそうですよね。
2015-05-10 Sun 03:11 | URL | rejea [ 編集 ]

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