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狼陛下の花嫁SS・イラストなど

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伴星 ~薄氷に集う~

こちら、天狼星の設定を決めた時に考えた、克右さんと殿下たちとの出会いを書き起こしたものです。
北にいた頃の話をねつ造した続き物ですので、苦手な方はスルーなさって下さい。
詳しい設定はこちら→天狼星について



克右は柄にもなく憤っていた。
前線で武功を上げ、辺境軍の本部へと呼び戻された自分を待っていたのは、褒賞の話ではなく実にめんどうな厄介事だったからだ。
「だから、何で俺のような身分もない男に王弟殿下の指南役なんて大役が回ってくるんです。」
この度の配属を指示した上官に食ってかかる。
「実際に、今我が隊で最も勢いのある男はお前だ、克右。王弟殿下とは恐れ多くも年も近い。良い相談相手になるのではないかと思ってな。」
年齢―――そう、気に入らないのはそれだ。
今日指南役としての任を任せると言われたその足で、正式な着任前の視察に来ていた王弟殿下に引き合わされた。
まだ、子どもだ。
ついでに言うと、横に立っていたひょろひょろした眼鏡の側近も克右より若く、護衛兼隠密だと言う少年は女と見まがうほどの幼さだった。
一体、何の冗談だ。子供が三人で遊びにでも来たのか。
厳しい前線での互いの命を削る戦い。現に克右の友人も何人も命を落とした。
物見遊山で来るべき所ではない。
身分貴き者の気まぐれで一時の娯楽扱いをされたら、死んでいった仲間が浮かばれない。
「このような場所に王弟殿下がいらっしゃること自体がおかしいのでは……」
言いかけた克右の言葉を、卓を叩く音が遮る。
「黙れ克右!貴様、いつから私に楯突ける程偉くなった!」
その余りの剣幕に、克右は口を噤んだ。
「此度の王弟殿下のご着任と貴様の処遇については将軍直々にお話を賜ったのだ。精々、気を入れて励め。話はそれだけだ。」
早く部屋から出ていけとばかりに上官は話を終わらせた。

(何だって俺が子供のお守りをしなきゃならないんだーーー)
克右は苛立つ気持ちを静めようと、裏手の木立を歩くことにした。
鳥の囀りや梢の音を耳にするうち、段々と高ぶった気持ちが治まっていく。
(そうだ、その内に話をする機会もあるだろう。その際に辺境軍に来るなどと言う考えを思い直すよう、諭せばいい。)
克右が黙考していたその時。
「アンタ、オレらのこと遊びで来てると思ってんだろ。」
頭の上から声がした。
一瞬後、音も立てずに克右の背後に小さな影が舞い降りた。
「……お前、殿下の隠密か。」
克右は驚いた。
思考にふけっていたとはいえ、自分は軍人。
その自分にこの少女のような隠密は気配を悟らせなかった。
「さっき引き合わされた時のアンタの顔。不愉快そうだったもんな。」
口元だけ、僅かに笑みの形を作り、隠密は続ける。
「ああ、はっきり言って不愉快だ。ここは貴いお方がふらふら来て良いような場所じゃない。お前さんも自分の主が大事なら、思い直すように伝えてくれないか。」
克右の答えに、隠密は抑えきれないとでも言うように笑い声を漏らした。
「っは……アンタ、本気でオメデタイ頭してんだな。」
「何が……」
克右の言葉を遮って、隠密がさらに口を開く。
「不愉快なのはこっちだ。ロクな覚悟も無い奴がオレの縄張りを踏み荒らすなよ。」
その瞬間、小さな体から殺気が迸った。
突然の突き刺さるような気配に、枝に止まっていた鳥が我先にと逃げるように飛び立つ。
(このガキ、何なんだ……)
戦地に立つ優秀な軍人だからこそ分かるその濃厚な殺気の正体。
これは一人二人を殺したなんてものじゃない。
もっと、数え切れない程の魂を屠ってきた者のみが持つ気配だ。
「お遊びの剣術ごっこでも仕込もうってんなら今すぐ消えろ。目障りだ。」
隠される事のない明らかな敵意に、思わず克右も身構える。

その時、木立の影から涼やかな声がした。
「無駄に殺気立つのは控えなさい、浩大。余計な鼠を引き寄せかねません。」
足下の草を静かに踏みしめながら現れたのは、あの眼鏡の側近だった。
「もしそうなったら、いつもみたいに殺るだけだろ。それにしても、李順サンも気配消すの巧くなってきたね。」
「まぁ、死活問題ですから。」
殺気を抑えた浩大というらしい隠密のからかうような言葉に、李順と呼ばれた眼鏡の側近は淡々と応える。
「さて、徐 克右殿。悪いことは言いません。この度の命を受けず、今すぐ全てを捨てて辺境軍より立ち去りなさい。」
先程からただならない様子の少年二人に驚いた克右だが、表情一つ変えずに告げられた突然の言葉に、さすがに瞠目し声を上げた。
「おい、李順殿。それは一体どういう意味だ。」
「指南役の命を受けてしまえば、貴方の命の保証は出来ません。今なら命だけは無事でいられます。」
(俺の、命の保証?前線に立つという王弟殿下ではなくて……?)
怪訝な顔をした克右だったが、目の前の少年たちをもう一度目にして、唐突に悟った。

何故、王弟殿下ともあろう方の護衛が、少女のような隠密一人なのか。
何故、側近として付き従うのが自分よりも若い者一人だけなのか。
何故、今回の指南役に自分のような身分のない男が選ばれたのか。
単純な答え。
―――これは贄だ。
殿下に『もしも』のことがあれば、即座に責任を取らせ、殺す。その為のあと腐れのない贄。
最低限の護衛と側近しか置かせず、今までも何度もその命を奪おうとしてきたのだろう。
そして首尾よく行かず、編み出した苦肉の策が前線へ赴かせることだったのだ。
王弟殿下の死。
中央の連中が望んでいるのは、ただそれだけだ。

克右は自らの足下に広がる薄氷の幻を見た。
一度でも足を踏み抜けば、そのまま深い闇にその身を飲まれる。
彼ら二人はその主と共に、薄氷の上を渡って今日まできたのだろう。
彼らの内、誰か一人でも欠ければ即座に割れてしまう薄い氷。
少年三人の足元を延々と覆う薄氷の幻影に、しばし克右は縛られた。
ここから一歩を踏み出せば、暖かな地面に戻れることはないだろう。
乗るのは皹が入り、いつ割れるともしれない頼りない薄氷の上。

「何故自分が選ばれたのか判らないほど阿呆ではないらしいな。」
―――来た。彼らの唯一にして、絶対の主。木立の陰を縫うように、美しい少年が歩いてくる。
「今ならまだ軍人としてではない新しい生き方も探せよう。将軍には僕から上手く言っておいてやる。」
そう言いながら、紅い瞳の少年は自らの部下の隣に身を置いた。
王弟殿下、珀 黎翔。そしてその唯一の隠密と唯一の側近。
互いを結ぶ死の絆で固く結ばれた主従。

(あんたらは、まだ子どもじゃないか……)
克右は自分の先ほどの愚かしい見解を悔いた。
(そんな生き方しか、許されないのか。)
ならば、自分が選ぶべき道は。
「……いくらあんた方が暗殺者やら刺客やらに慣れ切った生活を送っていようが、戦場での戦い方は別物だ。今のままだと確実に共倒れだ。」
自分の答えなど一つしかない。
「俺が、あんた方を生かす。戦い方を教えます。」
それを聞いた黎翔は意外そうに美しい眉を動かした。
「……だそうだが、どうする?浩大。お前は気に入らないのだろう。」
「当たり前だろ。一時の情に流されて自分の岐路を選び間違える奴を、オレは信用しない。」
冷たい瞳をちらりと克右に向けた浩大は続ける。
「でも、黎翔様。アンタは気に入ったんだろう?なら道具のオレが口をはさむことじゃない。」
「さすがよくわかってるな。李順、お前はどう思う?」
「……克右殿がご自身の立場を分かった上で決めたことならば。黎翔様は確かに戦場での戦い方を学んだ方がよろしいでしょう。」
「ちっ……やっぱり決まりか。ただ、黎翔様。一つだけ条件がある。」
低い声で浩大が言う。
「退路のある奴は必ず決意がゆらぐ。オレらの生きる場所でそのゆらぎは命取りだ。だからこいつが邪魔になれば、オレが真っ先に殺す。その許可をくれ。」
その言葉に黎翔の瞳は楽しそうに笑みを含んで細められた。
「―――だ、そうだが。どうする、徐 克右。」
その美しく恐ろしい笑顔は野生の若い獣を思わせた。
その獣の眼前で、今自分は試されている。
どの程度の器なのか。お前という人間は。
応えて見せよ。

「―――あんたら、全員未成年でしょう。こんなあぶなっかしい子供だけで戦場なんか出せますか。引率者が必要でしょうが。」
頭を掻きながら言った克右の言葉に黎翔は笑った。
「お前、損する性格の男だな。」
「よく言われます。さて、そうと決まったら、さっそく訓練の内容を決めないと。まずはその薄い体を鍛えないと、甲冑着こんだ相手を叩き切れないですよ。」
「やっぱりそういうものか。壬州の州府の訓練場を借りる手筈になっている。お前もこのままついてこい。」
「そうですね。何もしないまま隠密に暗殺されちゃあたまらんですし。」

分かって薄氷に乗ったのだ。
もう振り向くことは許されない。
生き抜く為になにをするか、それだけを考える。
情に流されたこともあるが、それ以上に克右は指先が痺れるような緊張と興奮にその身を任せたかった。
―――この薄氷を進んだ先に何があるのか。
とりあえず生きていさえすれば、いつか見ることができるだろう。




後記。
仕事が繁忙期でなかなか書けませんでした。
「いつになっても終わらんぞ」と呟いてもイケてる側近眼鏡は現れず、書類が机上に重なっていくばかり…
月末はしんどいっす……

浩大が割とひどい感じですが、声を大にして言いたいのは私は浩大も好きだということです!(必死)
原作で仲悪いと言われてる二人をブラックな設定の「天狼星」で出合わせたらこうなってしまいました。
ブラック浩大、好きなんです。

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天狼星 | コメント:2 |
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コメント

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015-04-29 Wed 08:11 | | [ 編集 ]
Re:
あい様。
こちらこそいつも読んでいただいてありがとうございます!暖かいコメントが心に沁みる~(*´▽`*)
気に入って頂けて良かったです。ブラック同盟万歳!
やっぱり恋愛が全く絡まない話は、おっさんと化している私とすると書きやすかったです…
2015-04-29 Wed 10:17 | URL | rejea [ 編集 ]

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