星空の隙間

狼陛下の花嫁SS・イラストなど

白梅

新春ですね。
ど田舎、山里育ちの私。
地元に居た頃は冬の冷たい空気の中に白梅の花の香りがすると
「あー春が来るなあ」
って実感しておりました。


原作寄り、ご夫婦設定です。
時期的にはコミックス13巻から一年後くらいです。

それではどうぞ。






夕鈴は壷に生けられた白梅の、小さな花弁にそっと触れた。
まだ、冬の気配の色濃いこの時期に、南の庭園の梅がいち早くほころび始めたのだと、侍女が嬉しげに携えてきてくれたものだ。
お妃さまは花が好きでいらっしゃいますもの、と優しく微笑む彼女たちの気持ちが嬉しくて、つい頬が緩む。
……もうすぐ春が来る。
ここに戻ってきた、あの季節が。


夕暮れ時の部屋の中、ぼんやりと物思いに耽る夕鈴の細い身体を、長い腕が急に背後から抱え込んだ。
「きゃあっ!」
「ただいま、夕鈴」
頭の上から、甘い声が降ってくる。
「……もうっ。陛下ったら、脅かさないで下さい!」
夕鈴の抗議などどこ吹く風といったように、黎翔は夕鈴の後ろ頭にすりすりと頬を擦り付けた。
気付けは侍女の姿もなく、部屋に二人きりだ。
どうやら、部屋に入るなりさっさと下がらせてしまったらしい。
「どうしたの?何か考え事?」
耳許で囁かれると、くすぐったいし恥ずかしい。
夕鈴は首を竦めながら振り返る。
「あの……今日侍女さんが、庭園に咲いていた梅の枝を生けてくれて。
もう春が来るんだなあと思うと、何だかちょっとびっくりしちゃって」
黎翔は夕鈴の言葉に促されるように、すっと長い指を伸ばして白梅に触れた。
「―――ああ、佳い香りだ」
呟いた声が、なぜかいつもと調子が違うような気がして、夕鈴はそっと黎翔の顔を見上げた。
慈しむように。どこか、噛み締めるように。
紅い瞳はじっと白い花弁を見詰めている。
夕鈴は初めて見る夫の様子に小さく首を傾げた。

「梅の花、お好きですか?」
「うん。姿もだけど、この香りが好きなんだ」
夕鈴の問いに、どこか気恥ずかしげに黎翔は頷いた。
「ああ!分かります。
すごくいい香りですよね。上品で。
それに実は食べられるし!私、青梅をもいだ時の爽やかな香りも大好きなんです」
明るく即答する夕鈴に、黎翔は小さく声を上げて笑った。
「はは、なんだか夕鈴らしいな」
「……それって、食い意地張ってるってことですか?」
ちょっとだけムッとした顔にもう一度頬を擦り寄せて、黎翔は言った。
「ううん。夕鈴は本当にいいお嫁さんで、本当に可愛いなって思って。
君のそういう飾らないところが大好きなんだ」
何度甘い言葉をかけられても、どうしても顔が赤くなってしまう。
夕鈴は、顔が見えないようにもう一度背を向けて俯いた。

下を向いてしまった夕鈴の髪をさらさらと愛しげに撫でながら、黎翔はぽつりと口を開いた。
「君が後宮に戻ってきた時に、庭の白梅が少しだけど咲いていたんだ。
政務の合間に後宮に向かう回廊で、冷たい風に乗って、遠く花の香りがしていた」
夕鈴は、自らを抱く腕に力が込められたのを感じた。
「この香りが日毎に強くなる度に、君が本当に戻ってきたんだと感じることが出来て嬉しかった。
私にとっては、君が春の暖かさそのものだったから。
今だってそうだ。
君が居なければ、白梅の花も私にとっては何の意味も成さないのだから」
いつの間にか狼に変わっている夫の声が、頭のすぐ後ろで囁かれる。
「だから、君が本当に此所に居るのだということを……
我が下へも春が来るのだということを、もっと感じさせてくれないか―――」


いつもなら大体この辺りでほどほどにして下さいとか、いちゃつき過ぎだ、などと苦情が申し立てられるのだが、夕鈴は俯いたまま、何も言わない。
梅花の芳しさに浮かれて、帰ってきて早々やり過ぎただろうか。
少し不安げに腕の力を弛めた黎翔の袖を、細い指がきゅっと掴んだ。
「……夕鈴?」
さらりと落ちかかる髪の間から覗く白い項が、ほんのりと赤く染まっている。
しばらく逡巡するかのように黙っていた夕鈴が、小さく口を開いた。
「……私も、です。
さよならした時に、もう一緒に新しい季節を迎えることはないんだって、そう思っていたから。
だから、陛下が来てくれた時に白梅の香りがしていたこと、よく覚えてます」
黎翔の袖を掴む手に、さらに力が込められる。
まるで、縋りつくかのように。
「陛下が居なきゃ、私にも春は来なかったんです」


寒さの中、凛として咲く気高い白い花。
なのにその香りは、包み込むように優しく甘く、それでいて蠱惑的で。
白梅は、夕鈴にとってどこか黎翔を彷彿とさせる花だった。
恥ずかしくて、とても口には出来なかったけれど。
その花に今年も出会えたことで、側に居られる喜びを改めて噛み締めていたのは、夕鈴も同じだった。

同じ花を見て、同じように互いを想う。
何も言わずとも、通じ合えた気がする。
それが、ただただ嬉しかった。
夕鈴の口許は微笑んでいるのに、大きな瞳は涙をはらんで潤んでいた。
「陛下、私はずっと側に居ます。だから陛下も私の側に居てください。
……約束、ですよ?」
黎翔は夕鈴を抱く腕に一層の力を込めた。
「……ああ。約束だ。もう、絶対に離さない」


暖かな春も、煌めく夏も。
実りに満ち満ちた秋も、そして白く凍てつく冬でさえ。
これからをずっと、共に二人で。

想いの丈を分かち合うように口付ける二人を、白梅の甘い香りが包んでいた。





後記。
梅の花言葉は「忠実」や「忍耐」。特に白梅は「気高さ」や「気品」を表すんだそうです。
白梅の枝に猿のように登ったり、顔面から突っ込んで怪我した私には似合わない言葉……
お正月休み、白梅は見つけられなかったんですが、蝋梅(ロウバイ)を発見。

20160101222752bd7.jpg

梅はバラ科で、ロウバイはロウバイ科。←よくわからん
正確には梅の仲間ではないらしいのですが、つやっとした鮮やかな黄色が可愛い花で、梅によく似たいい匂いです。
因みに花言葉は「慈愛」だそうです。



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コメント

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2016-01-08 Fri 23:09 | | [ 編集 ]
おはようございます。カナです。
とても良いお話に、朝からほっこりしました。
やっぱり、夕鈴は何言っても可愛いですね!
陛下が溺れるのも納得します。(でも陛下もカッコイイ!
二人の約束はきっと永遠でしょうね!
ほっこりお話も私の大好物です!
2016-01-09 Sat 08:44 | URL | カナ [ 編集 ]
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2016-01-09 Sat 10:55 | | [ 編集 ]
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2016-01-09 Sat 15:40 | | [ 編集 ]
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2016-01-09 Sat 21:37 | | [ 編集 ]
あい様。
1番拍手&リターンありがとうございます♪
ああぁ!!さらには21000お祝いコメまでっ(TωT)ホロリ
次のお話、あせらず楽しみに待っておりますので!
お体を大事に、どうかご無理なさらず(*^_^*)


原作の陛下ってなんであんなに甘くて格好いいセリフをさららら~っと口にするんでしょうね。
天性の女泣かせ!!
だから朱音さんもぽーっとなっちゃうんじゃないだろうか??と夕鈴に問い詰めてもらいたいです。
原作っぽい陛下のセリフを想像するの、すごい大変で……

梅の花、嗅ぐ機会があればぜひ♪
上品なのにどこかヤラシイ感じがして陛下っぽいです(笑)


2016-01-10 Sun 22:51 | URL | rejea [ 編集 ]
カナ様。
ほっこりしていただけて嬉しいですヽ(^o^)丿
テーマは「穏やかな春」だったので♪
夕鈴かわいいですよね。最近のお嫁さんのかわいさヤバイです!!
ご夫婦はもう永遠にいちゃついていて下さい!

次はこれの続きでR18を上げる予定でおりまして…
全然ほっこりしない内容になる予感です(^_^;)
2016-01-10 Sun 22:58 | URL | rejea [ 編集 ]
働き過ぎから解放中様。
最先端な貴方様へ、お仕事ぎゅうぎゅうからの解放、お疲れ様です~~\(^o^)/
そして今年もどうぞよろしくお願い致します!

新年一発目なので、爽やかに穏やかに!と念じつつ書きました。
はっΣ(-_-;)だからなかなか進まないのか…!!

あちらの話も気に入って頂けて良かったです。
ホントあんなの、もはやただの変態ですからね!心配してたんです!
結局堂々と鍵も付けずに晒したわけですけど!!



2016-01-10 Sun 23:09 | URL | rejea [ 編集 ]
ゆらら様。
今年もどうぞよろしくお願い致します!
あ~~、時期が来ると山から猟銃の音とかするんですよね(笑)
狩猟解禁だぜ!!って言って、勇んで山に入ってった近所の爺さまが熊に襲われたりとか。
田舎あるある♪←うちだけだったらどうしよう

畏れ多いような言葉を頂きあわあわと挙動不審に…ありがとうございます!!
最近の本誌のお妃さまにキュン死にしそうで!
まさに仰られたシーンの、「こわいものも増えていくのね」っていうアレ!!
元気な溌剌とした女の子から、一人の女性になったんだなぁって、もう感慨深くて。
そういう子だったんだなぁと、魅力をしみじみ再発見です。
本当、二人が側にいられて良かったです。
2016-01-10 Sun 23:21 | URL | rejea [ 編集 ]

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